大判例

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高松高等裁判所 昭和56年(ネ)1号 判決

控訴人

安藤洒

被控訴人

潮見芳正

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

控訴人は国庫に対し金四万円を納付せよ。

事実

一控訴人は適式の呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭しなかつたが、陳述したものとみなす控訴状によると「原判決を取り消し、本件を原裁判所に差し戻す。控訴費用は被控訴人の負担とする。」旨の判決を求めるというのであり、被控訴人は「本件控訴を却下する。しからざるときは本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二当事者双方の主張は、左に付加するほか原判決の事実欄に記載のとおりであるから、それを引用する。

(控訴人)

(一)  再審事由に関する主張を次のとおり追加する。

1 控訴人は、松山地方法務局伊予三島出張所供託局に昭和四六年三月三日申請法令条項民法四九四条、弁済供託訴訟費用額三一万八八七四円と執行費用額二万二一二六円を供託して、控訴人が松山地方裁判所西条支部において、右に対する異議事件の本訴を控訴人が取り下げて、訴訟費用額不動産強制競売事件は一応決着した。しかるに松山地方裁判所西条支部昭和五一年(ヌ)第一六号不動産強制競売開始決定したことは、西条支部裁判官山崎宏の財産権侵害憲法二九条一項の解釈の誤りであつて裁判官山崎宏の憲法違背である。右に対し抗告もし、異議の本訴を提出したが却下せられて、その後昭和五二年三月二五日伊予三島簡易裁判所において、三八万一六七四円を不当、訴訟費用額不動産強制競売執行したことは、西条支部裁判官山崎宏の公務員職権濫用刑法一九三条の罪の刑であつて裁判官山崎宏の刑事責任である。右の事実は、高松高等裁判所の裁判所法二〇条同法八〇条司法行政監督義務を怠りたるものであつて、職務忠実義務違反である。したがつて、松山地方裁判所西条支部は不作為庁であるので、控訴人は国を相手どつて松山地方裁判所昭和五二年(行ウ)第四号不作為の違法確認請求事件(原告安藤洒、被告国、右代表者法務大臣奥野誠亮)行政事件訴訟法三条五項の規定による提訴したのは昭和五二年一一月一五日のことである。右事件の第一回口頭弁論期日が昭和五三年一月二三日午前一〇時と指定され期日呼出状の送達を受けたのは昭和五二年一二月二九日のことである。右の事実は民事訴訟規則三条同法一五条二項に反する。裁判官の規則に反するものは裁判所法第二九条司法行政事務の違反である。裁判官の裁判所法に反するものは憲法七六条三項の解釈の誤りであつて、松山地方裁判所裁判長裁判官水地巌の憲法違背である。したがつて、右は公務員職権濫用刑法一九三条の罪の刑であつて裁判長裁判官水地巌の刑事責任である。右事件に対し昭和五五年二月二三日に至るも一回の口頭弁論も開かないで、その判決言渡し期日を昭和五五年三月三一日午前一〇時三〇分と指定し、控訴人がその期日呼出状の送達を受けたのは昭和五五年二月二五日のことであるので右の達式決定に対する抗告をしたが、今日に至るもなんの決定もないことは、高松高等裁判所の裁判所法二〇条同法八〇条司法行政監督義務を怠りたるものであつて、高松高等裁判所長官裁判官井上三郎の職務忠実義務を怠りたるものであつて忠実義務違反である。

2 控訴人は松山地方裁判所西条支部昭和四〇年(ワ)第七三号損害賠償請求事件(原告潮見芳正、被告安藤洒)で控訴人は一部敗訴したので、控訴を申立て(高松高等裁判所昭和五一年(ネ)第一六八号損害賠償請求事件)予納切手四五〇〇円、予納費用七五〇〇円合計一万二〇〇〇円を予納したが高松高等裁判所が控訴審の弁論期日を一回も開かないので、控訴人は控訴を取り下げ第一審判決が確定したので、控訴人に五万円支払う義務はあるけれども、松山地方裁判所西条支部裁判官廣瀬健二が昭和五五年一月二三日訴訟不動産強制競売開始決定不動産差押えたことは、裁判官廣瀬健二の財産権侵害憲法二九条一項の解釈の誤りであつて、裁判官廣瀬健二の憲法違背である。したがつて公務員職権濫用刑法一九三条の罪の刑であつて裁判官廣瀬健二の刑事責任である。民法九〇条同法九四条裁判官廣瀬健二の不法行為である。したがつて、松山地方裁判所西条支部は不作為庁である。右は高松高等裁判所の裁判所法二〇条同法八〇条司法行政監督義務違反である。

(二)  控訴人は、原審担当裁判官岩井正子に裁判の公正を妨ぐべき事情があるので、忌避の申立をした。裁判官岩井正子は民法九〇条同法九四条不法にも右忌避の申立却下決定をしたので控訴人は抗告した。しかるに裁判官岩井正子が判決言渡し期日を昭和五五年一二月二六日午後一時と指定しその期日呼出状の送達を控訴人が受けたのは昭和五五年一二月一七日のことである。右事件について一回の口頭弁論もしない。民事訴訟法四〇条除斥又は忌避につき裁判に関与することを得ずに昭和五五年一二月二七日判決が送達されたことは裁判官岩井正子の裁判所法二九条司法行政事務の違反である。裁判官の裁判所法に反するものは憲法七六条三項の解釈の誤りであつて、裁判官岩井正子の憲法違背である。したがつて、公務員職権濫用刑法一九三条の罪の刑であつて、裁判官岩井正子の刑事責任である。したがつて裁判官岩井正子の民法九〇条同法九四条、不法行為である。右の事実は民法一条社会福祉に反する。立憲民主主義平和憲法の趣旨に反する。福祉国家の趣旨に反し許せないので控訴する。

(三)  控訴人が右裁判官忌避申立却下決定に対する抗告をしたのは昭和五五年一二月一五日のことであるが、右抗告に対し訴訟手続、司法行政事務取扱に重大なる手落ちがあつた。右の事実があるのに昭和五五年一二月二六日午後一時を判決言渡の期日とする呼出状を控訴人が受けたのは昭和五五年一二月一七日午前一〇時三〇分のことである。右の事実は控訴人の裁判を受ける権利を奪つたものであつて、担当裁判官岩井正子の憲法三二条の解釈の誤りであつて、裁判官岩井正子の憲法違背である。右の事実は民法九〇条同法九四条裁判官の不法行為である。したがつて、裁判官岩井正子の裁判所法二九条司法行政事務の違反である。右の事実があるのに昭和五五年一二月二六日判決言渡したことは抗告人の違式決定に対する抗告(民事訴訟法四一一条)を無視し控訴人の基本的人権の侵害であつて憲法一一条の解釈の誤りであつて、裁判官井上正子の憲法違背である。裁判官岩井正子の公務員職権濫用刑法一九三条の罪の刑であつて、裁判官岩井正子の刑事責任であつて許せないので控訴する。

(被控訴人)

控訴人の右主張をすべて認めない。

理由

一当裁判所は控訴人の本件再審の訴えを不適法であると判断するが、その理由は原判決の理由説示と同じであるからそれを引用する。但し、原判決二枚目表一〇行目の「出寄正清」の次に、「、同水地巌、同井上三郎、同廣瀬健二」を加える。

二控訴人指摘の原審裁判官岩井正子に対する忌避申立を忌避権の濫用であるとして却下した同裁判官の決定は正当であり、このように忌避権を濫用する控訴人(原審原告)のために、迅速な裁判を受けるべき被控訴人(原審被告)の権益が侵されるべきでないとともに、裁判所の正当な訴訟運営が阻害されるべきでないから、このような場合には民事訴訟法三九条、四〇条、四二条本文の適用はないものと解するを相当とする、したがつて原裁判所が控訴人指摘の即時抗告(右忌避申立却下決定に対する抗告)及び抗告(原判決言渡期日を昭和五五年一二月二六日午後一時と指定した裁判に対する抗告)に対する上級審の裁判前に、原判決を言渡したことにも違法はなく、その他、記録を精査しても、原審の訴訟手続に原判決を取り消すべき憲法違反その他の法令違反があるとは認められない。

三よつて本件控訴は理由がなく、原判決は正当であるから、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条本文、八九条を適用して、主文一、二項のとおり判決する。

四さらに本件記録によると、控訴人が昭和五一年八月二四日原審に本件再審の訴を提起して以来、原審は口頭弁論期日を指定すること一〇回に及んだが第一回口頭弁論期日が控訴人の期日変更申立に基づいて変更され、昭和五五年一二月一二日の口頭弁論期日が訴状等の擬制陳述で期日が開かれたほかは、原裁判所が口頭弁論期日を指定する毎に控訴人が裁判官忌避の申立を行つたため、その訴訟手続が中止されたこと(但しそのうち昭和五四年四月六日の期日は被控訴人から病気による変更申請もあつたが控訴人の忌避申立のため中止となつた)、原判決に対する本件控訴は昭和五六年一月六日に提起され今日迄三年近くを経過し、その間五回口頭弁論期日が指定されたがここでも控訴人は口頭弁論期日が指定される毎に裁判官忌避の申立を行つたためその訴訟手続が停止されたこと、この間控訴人は原審においても当審においても一度も口頭弁論期日に出頭して弁論を行つたことがなく、裁判所はその真意を正す機会がないこと、このため当裁判所は昭和五八年九月二二日の口頭弁論期日においては控訴状と準備書面の陳述を擬制し被控訴人に答弁を命じて本件を結審したことが明らかであり、控訴人の忌避申立やそれに対する抗告、特別抗告の理由は受訴裁判所の裁判官その他の裁判所職員、司法行政上の監督者を故なく非難するもので到底民事訴訟法三七条の忌避理由たり得ないことは明らかである。

以上の事実によると、控訴人には真面目に本件控訴を追行する意思がないのに専ら裁判所に対する非難や被控訴人に対する嫌がらせのため本件控訴を提起しているとしか考えられず、斯様なことは前例をみないものである。

思うに国民に対する訴権の保障は憲法の定めるところであり民事訴訟法等の各種法規はそのために整備されているが、国民の税金で維持されているこの訴訟制度は善良な国民の正しい権利を守るためにあるので国民がこれを濫用することは許されないのみならず、一々それに応対せねばならぬ相手方の保護をも考慮せねばならぬことは言を俟たぬところであつて、控訴人の本件控訴は民事訴訟法第三八四条ノ二第一項の控訴人が訴訟の完結を遅延せしむる目的のみを以て控訴を提起したものと認められるので、同条により控訴人に対し本件控訴提起の手数料の一〇倍以下の四万円を国庫に納付することを命ずることとする。

(菊池博 滝口功 渡邊貢)

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